先日、分娩予定日より3日ほど前から軽い疝痛症状があるという牝馬を診療した。
エサは食べていて、腸の動きも問題ないよう。なので、やはり子宮の問題か?
直腸検査をすると、まず胎子がすぐそこに、子宮と直腸壁を圧迫していることがすぐにわかる。
でも、そうしたことは正常な馬でもよくある。じゃあ胎子の体のどの部位なのか?
よく触ってみると、まず肢が2本。これは触診とエコーで蹄の確認で判断できる。その奥に頭が来ている。これは主にエコーで目が描出されることで確認される。少なくとも逆子ではない様子。
でも待てよ、その奥にも何かある・・・別の足が2本骨盤に乗っかっている!!
いわゆる"dog-sitting posture"だ。
分娩時に4本脚が出てくると胎児はほとんど死亡し、体を半分に切断して上半身と下半身を別々に引っ張り出すという、悲惨な方法が常套手段だ。
陣痛が始まって、なかなか出ないので呼ばれるケースがほとんどだが、今回のように分娩が始まる前に診断したのは初めて。
悩んだ末、子宮弛緩剤を投与して引き運動を実施してもらった。その間にも陣痛が始まりそうな気配もあったので、二次診療施設に搬入することとなった。
後に聞いた話だが、馬が到着後その施設の先生が直腸検査したところ、後ろ脚は確認できなかったそうで、夜8時頃に無事自然分娩したということだった。
今回の経験で学んだことは2つある。
一つ目は、まだ陣痛が起こっていない分娩前に直腸検査により胎位を確認することは、難産の予知になりえること。
正常な場合、胎子の後ろ脚は妊娠7か月頃から妊角に収まりロックされる。
直腸検査で触ることができるのは、胎位からすると逆さになった後ろ脚もしくは前脚で、今回のように4本の脚と頭部が骨盤内で同時に触知される例は異常といえる。
もしかしたら、数パーセントの馬では後ろ足がロックされていないにも関わらず、分娩時に胎子が自然に正常な体位に戻るのかもしれないが、これは考えにくい。
二つ目は、陣痛が始まる前に後ろ脚が骨盤腔に入り込んでいた場合、子宮弛緩剤を使うと難産が予防できる可能性があるということ。
分娩時に胎子の足が3本または4本出てきた場合には、胎子のみならず母馬の生命を脅かすことが多いので、もしそのようなタイプの難産の予知と対処が可能であれば、分娩前の胎位の確認はするべきであると思う。
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